two Layers of Carious Dentin(二層のう蝕象牙質)について
はじめに
今回紹介する論文は、1979年に総山孝志(Fusayama, T.)によって発表された研究であり、感染象牙質(Infected Dentin) という概念を臨床応用した画期的なものです。この論文は、う蝕象牙質の二層構造を明確にし、それに基づいた治療方針を示したことで、現代の虫歯治療の基礎を築きました。本記事では、この二層構造について詳しく解説し、臨床的な意義についても考察します。
Two Layers of Carious Dentin(二層のう蝕象牙質)とは?
う蝕によって変性した象牙質は、大きく次の2つの層に分類されます。
- 感染象牙質(Infected dentin)
- 影響象牙質(Affected dentin)
それぞれの層の特徴を詳しく見ていきましょう。
1. 感染象牙質(Infected Dentin)
感染象牙質は、細菌が浸潤し、象牙質のコラーゲン繊維が分解され、再石灰化の可能性がほとんどない層です。主な特徴は以下の通りです。
- 細菌が高密度に存在する
- 象牙質のコラーゲンが完全に破壊されている
- 物理的に軟化している(スプーンエキスカやラウンドバーで容易に除去可能)
- 再石灰化の可能性がないため、完全に除去が推奨される
この層を除去せずに修復を行うと、細菌が残存し、う蝕が進行するリスクがあります。
2. 影響象牙質(Affected Dentin)
影響象牙質は、細菌の直接的な感染はないものの、脱灰が進んで軟化している層です。この層には以下のような特徴があります。
- 細菌の侵入は少ない
- コラーゲン繊維の構造は保持されている
- 再石灰化の可能性がある
- 感染象牙質ほど軟化していない(ある程度の硬さが残っている)
- 必ずしも完全に除去する必要はなく、保存的な治療が可能
この層を保存することで、象牙質の修復能力を活かし、歯の耐久性を向上させることができます。
臨床的意義と治療方針
1. う蝕の除去基準
感染象牙質は完全に除去する必要がありますが、影響象牙質は可能な限り保存する方が良いとされています。これは、過剰な切削を避け、歯質を最大限に保存するためです。
2. MTAやバイオアクティブ材料の活用
影響象牙質を保存する場合、MTA(Mineral Trioxide Aggregate)やバイオアクティブセメントを使用することで、再石灰化を促進できます。
3. Stepwise Excavation(段階的除去法)
深在性う蝕の治療では、感染象牙質を一部除去し、一時的な充填を行った後、数ヶ月後に最終的な修復を行う方法(Stepwise Excavation)が有効です。この方法により、影響象牙質の再石灰化が促され、歯髄保存の可能性が高まります。
まとめ
「Two layers of carious dentin」は、う蝕象牙質の二層構造を理解するための重要な概念です。感染象牙質は除去が必要ですが、影響象牙質は可能な限り保存し、再石灰化を促すことで、歯の耐久性を向上させることができます。保存的なう蝕治療の選択肢を広げることで、患者の歯の健康を長期的に守ることが可能になります。
う蝕治療において、単に「削る」のではなく、「何を残し、何を取り除くべきか」を意識することが、より質の高い歯科治療につながります。
感想 現在の虫歯治療の元となる論文です。我々も「虫歯をしっかり取る」と「できるだけ削らない」を踏まえて治療しています。MIと呼ばれる考えを実践できるのも総山(ふさやま)先生のおかげです。ありがたいです。
