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根管治療におけるイスマスの問題点とその対応・課題

はじめに

今回ご紹介するのは、**最近の論文(2022年、日本歯科保存学会)です。
根管の内部は非常に複雑であり、それゆえに治療には高度な専門性が求められます。この論文では、根管治療の難しさの要因として
イスマス(isthmus)**に注目し、その問題点や治療への影響について詳しく述べられています。

本記事では、論文の内容をもとに、根管治療におけるイスマスの問題点、適切な対応策、そして今後の課題について解説します。


イスマスとは?

イスマスとは、二つ以上の根管をつなぐ狭く薄い組織の通路のことを指します。特に**大臼歯(上顎第一大臼歯・下顎第一大臼歯)**に多く見られます。イスマスは歯髄の残存や感染源の温床となりやすく、適切に処置しないと治療の失敗につながることがあります。


イスマスの問題点

1. 清掃・消毒が難しい

根管形成時に使用するNiTiファイルは円形の断面を持つことが多く、イスマスのような扁平な部分には器具が十分に届かないことがあります。そのため、歯髄や細菌が取り残されるリスクが高くなります。

2. 根管充填の不完全性

イスマスを適切に封鎖しないと、ガッタパーチャやシーラーが十分に行き渡らず、空隙が生じることがあります。この空隙が再感染の原因となり、治療の失敗率を高める要因となります。

3. X線・CBCT診断の難しさ

イスマスの存在は通常のX線画像では判別しにくく、特に2Dのレントゲンでは見落とされることがあります。CBCT(コーンビームCT)を活用すれば診断精度は向上しますが、すべての症例でCBCTを撮影できるわけではないという制約があります。


イスマスへの対応策

1. 超音波チップ(Ultrasonic Tips)の活用

NiTiファイルだけでは届きにくいイスマス部に対して、超音波チップを用いた清掃が有効です。超音波の振動を利用することで、細菌や壊死組織を効率よく除去できます。

2. EDTA・NaOClの積極的な活用

化学的洗浄剤(EDTAや次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl))を使用することで、器具の届かない部分の細菌を除去することができます。特に超音波洗浄と併用することで、洗浄効果を高めることが可能です。

3. CBCTを用いた術前診断

根管治療を行う前に、CBCTを撮影することでイスマスの有無や形態を事前に把握することができます。特に難治性の症例や再根管治療では、CBCTによる詳細な診査が推奨されます。

4. MTAなどのバイオセラミックを用いた封鎖

イスマス部分の封鎖には、**MTA(Mineral Trioxide Aggregate)**や最近のバイオセラミック系シーラーを活用することが有効です。これらの材料は、封鎖性が高く、抗菌作用を持つため、根管内の感染リスクを低減できます。


今後の課題

1. イスマスの正確な診断技術の向上

CBCTの活用は有効ですが、さらなるAI診断技術の発展が求められます。将来的には、AIによる画像解析でイスマスの有無や感染リスクを自動判別する技術が登場する可能性があります。

2. より効果的な洗浄・封鎖方法の開発

現在の洗浄方法には限界があるため、より効果的な超音波洗浄や、化学的洗浄剤の改良が期待されています。また、新しい根管充填材の開発により、より完全な封鎖が可能となることも課題の一つです。

3. イスマスに特化した器具の開発

現在、根管治療用の器具の多くは円形の断面を持つファイルが中心ですが、イスマスのような扁平な部位に適した専用器具の開発が求められています。


まとめ

根管治療において、イスマスは感染源の温床となりやすく、適切な処置を行わないと治療の成功率が低下する要因となります。そのため、術前のCBCT診断、超音波洗浄、適切な封鎖材料の使用が重要です。今後の技術進歩により、より正確で効果的な治療が可能になることが期待されます。

根管の縦断面です。根管の間にあるのがイスマスです。

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