今回は、岡山大学歯学部の研究グループが行った
日本人成人における根の治療(神経の治療)の頻度と
根の先の病気(根尖病変)がどれくらいあるか
を調べた論文をご紹介します。
この論文は
2005年に歯科医学専門誌
Oral Surgery, Oral Medicine, Oral Pathology, Oral Radiology and Endodontology
(略称 Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol Endod)
の第100巻第5号に掲載されたものです。
日本人の成人を対象に、レントゲン写真を用いて
どれくらい神経の治療を受けているか
どれくらい根の先に黒い影(炎症や膿の袋など)があるか
を詳しく調べた、とても興味深い研究です。
論文の原文情報
Tsuneishi M, Yamamoto T, Yamanaka R, Tamaki N, Sakamoto T, Tsuji K, Watanabe T.
Radiographic evaluation of periapical status and prevalence of endodontic treatment in an adult Japanese population.
Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol Endod. 2005;100(5):631–635.
PMID: 16243252
DOI: 10.1016/j.tripleo.2005.07.029
Abstract(英語原文)
少し専門的になりますが、まずは論文の英語の要約(アブストラクト)をそのまま載せます。
英語が苦手な方は、ここは読み飛ばしていただき、このあとに続く日本語の解説だけ読んでいただいても大丈夫です。
Objectives: To determine the prevalence of periapical radiolucencies and endodontic treatment in an adult Japanese population.
Study design: Periapical status and length of root fillings of 672 adult patients attending Okayama University Hospital of Dentistry were evaluated using full mouth intraoral radiographs.
Results: Overall, 87% of the subjects had root-filled teeth, and 70% exhibited an apical radiolucency. Of the 16,232 teeth examined, 21% had been root-filled, and, of these, 40% exhibited an apical radiolucency. Root-filled teeth that were overfilled or that were mandibular incisors had the highest prevalence of apical radiolucencies.
Conclusions: The prevalence of root-filled teeth appears higher in this Japanese population than in Europe or America; however, the ratio of teeth with an apical radiolucency to root-filled teeth was within the range of that reported for other countries. Overfilled teeth and mandibular incisors are most likely to exhibit apical radiolucencies.
ここからは患者さん向けのやさしい解説です
どんな研究だったのか
この研究では、岡山大学歯学部附属病院を受診した
成人 672 人の患者さんを対象に、
お口全体のレントゲン写真(デンタル X 線)を撮影して調べています。
レントゲンで、次の点を一本一本チェックしました。
どの歯が神経の治療(根の治療)を受けているか
その歯や他の歯の根の先に黒い影(炎症や膿の袋)がないか
この根の先の黒い影は、専門用語では根尖部の透過像(根尖病変)と呼ばれますが、
ここでは分かりやすく 根の先の黒い影 と呼びます。
結果 1
ほとんどの人がどこかの歯で神経の治療済み
まず、神経の治療をしている人の割合です。
調べた人の 87 パーセントが
どこかに神経の治療を受けた歯(根管治療をした歯)を持っていました。
10 人中 8〜9 人が、どこかの歯の神経を取っている計算になります。
神経の治療は特別なものではなく
多くの人が経験している治療である
ということが、数字からも分かります。
結果 2
10 人中 7 人に根の先の黒い影
次に、根の先の病気(黒い影)についてです。
調べた人の 70 パーセントに
どこかの歯の根の先に黒い影(炎症)が認められました。
もちろん、すべての人が痛みを感じているわけではありません。
自分では痛みを感じていなくても、
レントゲンで見ると根の先に病気が見つかるケースが少なくない、
ということを示しています。
結果 3
神経を取った歯の 4 割で、まだ黒い影が残っている
全部で 16,232 本の歯を調べたところ、
21 パーセントの歯が、すでに神経の治療(根の治療)を受けていた
その神経の治療をした歯のうち 40 パーセントに
根の先の黒い影(炎症や膿の袋)が見つかった
という結果でした。
神経を取って被せ物まで終わっている歯であっても
約 4 割では根の先に病気が残っている、あるいは再発している
ということになります。
感想
こちらの論文は岡山大学に受診している患者さんのデータをとっています。つまり、なにかしら問題があって受信されているので、一般的な感覚よりは病変がある確率が高いです。噛み砕いて言えば、検診や予防で受診している方が少ないところのデータということです。一昔前にせよ、海外の先進国にくらべて、あきらかに処置している数が多いのと病変の数は多いです。高度成長期の影の部分と保険診療で安く、気軽に治療がされてしまった結果かもしれません。