論文紹介 歯内療法−1
「我が国における歯内療法における現状と課題」(2011年)について紹介します。
須田英明先生 東京医科歯科大学(当時)
- 日本歯内療法学会誌 (Journal of the Japanese Society of Endodontics)
- 巻号: 2011年、第32巻、第2号
- ページ: 93–101
1. 歯内療法の現状
- 歯内療法の重要性
歯内療法(根管治療)は、歯の保存治療の一環として極めて重要であり、虫歯や外傷により歯髄が損傷した場合に歯を保存するために行われます。 - 成功率の向上と課題
技術や器具の進歩に伴い、歯内療法の成功率は以前に比べて向上しているが、日本では欧米に比べて依然として低いとされる。 - 臨床現場での実情
日本の歯科診療報酬制度において、歯内療法にかけられる診療時間や報酬が限られているため、理想的な治療が行われないケースがある。これが治療の質を低下させる要因となっている。
2. 主な課題
- 診療報酬制度の改善
歯内療法にかける時間やコストに対して、現在の報酬が不十分であることが挙げられる。そのため、適切な治療を施すのが難しい状況がある。 - 専門医の不足
歯内療法を専門的に行える歯科医師の数が少なく、一般の歯科医師がその役割を担う場合が多い。これにより、技術や知識のばらつきが生じる。 - 教育の課題
歯内療法に関する大学教育や卒後研修が十分ではない点が指摘されており、技術向上の機会が限られている。 - 最新技術の導入遅れ
マイクロスコープやニッケルチタンファイル(NiTiファイル)など、治療成功率を向上させる技術の普及が不十分。
3. 改善に向けた提案
- 診療報酬の見直し
歯内療法に必要な時間や技術に見合った報酬を設定し、質の高い治療を提供できるようにする。 - 専門医制度の充実
歯内療法専門医の養成を促進し、一般の歯科医師との役割分担を明確化する。 - 教育の充実
大学教育および卒後教育の場で歯内療法の重要性をより強調し、実践的なトレーニングの機会を増やす。 - 新技術の導入推進
マイクロスコープやNiTiファイルをはじめとする先進的な治療機器の普及を図り、成功率向上を目指す。 - 患者教育の強化
患者に歯内療法の必要性や価値を理解してもらうための啓発活動を行う。
4. 結論
須田氏は、日本の歯内療法が抱える課題を解決するためには、制度面や教育面での改革が必要であると述べています。また、歯科医療従事者の技術向上と患者の理解を深めることで、歯内療法の成功率を向上させることができると提案しています。
以上が一般的な解釈です。
私が興味深いと感じたのは、以下の図が東京医科歯科大学病院に来院した患者における、レントゲン上で確認された病変の発生率を示している点です。このデータからは、日本における根管治療の成功率がおよそ40%から50%程度であることが示唆されています。この値は、海外のデータと比較して著しく低い成功率であることがわかります。
著者は結論として、「まず治療の基本を徹底して遵守すべきである。その上で、これらの技術を十分に駆使できるようになれば、我が国における歯内療法の現状を打破し、大きく改善することが可能である」と述べています。この言葉は、我が国の歯内療法が抱える課題に対する極めて重要な提言であり、非常に重みのある言葉です。