複雑に根内部に分岐しているネットワークに潜んでいる感染
はじめに
今回は2013年の論文を紹介します。題は「Infection in a complex network of apical ramifications as the cause of persistent apical periodontitis: a case report」です。
根管治療は、感染した歯髄組織を除去し、無菌的な状態を確保することを目的としています。しかし、解剖学的に複雑な根管系を持つ歯では、従来の治療手法では完全な感染除去が困難な場合があります。本記事では、上顎大臼歯の頬側近心根(MB根)に発生した持続性根尖性歯周炎の症例を紹介し、その原因と治療のポイントについて解説します。
症例紹介
診断と初期治療
本症例は、単回根管治療を受けた後も持続性の根尖病変を呈した患者のケースです。治療は以下の手順で行われました。
- ニッケルチタン製の根管器具を用いた根管形成(根尖から0.5mm手前まで)
- 根尖孔の開通性の確保と維持
- 5%次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)による洗浄
- スメア層の除去
- クロルヘキシジンによる最終洗浄と超音波攪拌
- 垂直加圧充填法による根管充填
治療経過と外科的処置
治療後の1年6か月後のフォローアップで、根尖病変の拡大が確認されました。症状が改善しないため、根尖手術が実施されました。
手術後11か月のX線検査では、根周囲組織の治癒がほぼ完了していることが確認されました。
病理組織学的および細菌学的分析
病理組織検査により、病変は「ポケットシスト(pocket cyst)」と診断されました。外部には細菌の存在は認められませんでしたが、根管内の複雑な根尖分岐(apical ramifications)に厚い細菌バイオフィルムが存在していたことが確認されました。さらに、MB根の1つの根管では、根管充填材と根管壁の間に細菌が生存していました。
考察と治療のポイント
この症例から、以下の重要な点が示唆されます。
- 根管系の複雑性への対応
根管内の分岐や側枝の存在は、従来の根管治療では除去しきれない細菌の温床となる可能性がある。 - 根尖病変の持続性に注意
根管治療後も病変が拡大する場合は、外科的介入を検討する必要がある。 - 細菌バイオフィルムの存在
目に見えない根管の奥深くに細菌が生存し続けるため、洗浄・除菌を強化する必要がある。
感想 歯の内部はすごく複雑で、マイクロスコープ、手術用実体顕微鏡をつかうと尚更、その複雑さがわかります。ですから、感染させないことが一番重要です。その次は感染してしまったら、道具による物理的除去、薬剤による消毒など徹底した処置が臨まれます。治療は掛け算です。どれかができていないと0になってしまいます。身を引き締めて臨床に臨みます。
